アルツハイマー病の原因に作用するお薬がでますね
- 2023年10月21日
- 院長のおはなし
どうもこんにちは、院長です。
最近まで残暑でしたが、ここ最近はどんどん秋になりましたね。
体調を崩す方が増えています、
お気を付けください。
さて、今回のお題は
「アルツハイマー病の新薬」
です。
最近では報道もされるようになり、当院に来院される患者様にも
興味を持たれている方もいるでしょう。
(2023年8月21日 日本経済新聞)
エーザイからこの度、日本国内で臨床に使用可能なアルツハイマー病の新薬
が発売されることになりました。
このお薬は、これまでのアルツハイマー病の治療に用いられてきた薬剤とは、
その効き方(作用機序)が全く異なるお薬です。
どういうことなのでしょうか?
まず、アルツハイマー病についておさらいです。
アルツハイマー病といいますのは、
1906年にAlzheimer先生が、脳萎縮、脳病変(老人班、神経原線維変化)を伴う記憶力が低下した患者さんを報告したことに始まった脳の病気です。
(恩賜財団 済生会ホームページより引用)
アルツハイマー病のかたの脳のなかでは、脳神経細胞の老廃物であるアミロイドベータが異常に蓄積し、この結果老人班と呼ばれる脳病変が出現、さらにはタウ蛋白と呼ばれる異常な蛋白も蓄積し、神経原線維変化と呼ばれる変化を呈するようになります。これらの異常は、神経にとって有害なものであり、どんどん正常な神経が壊れてしまう、と考えられています。
(「BE NURSE『アルツハイマー型認知症の基礎知識と訪問看護』第1回:アルツハイマー型認知症とは」より引用)
このように、脳が障害されていく病気がアルツハイマー病です。
そしてその障害が進んだ結果、認知症を発症した状態がアルツハイマー型認知症となります。
日本における認知症患者の60%以上がこれによるものとされています。
MRIでもこの病気の診断のヒントが得られます。
当院での患者さんの画像ですが、
これは健康な成人男性の頭部MRIです。
矢印の部分は、「海馬」とよばれる部分です。これは正常です。
アルツハイマー型認知症のかたになりますと、
矢印の部分、「海馬」が萎縮してしまっているのが分かるかと思います。
ここの萎縮が、アルツハイマー型認知症におけるMRI所見のポイントの一つです。
そして、認知機能検査などの検査を行ったうえでアルツハイマー型認知症と診断された場合、
これまで日本では、その症状の進行を抑えるためコリンエステラーゼ阻害薬(ドネペジル、ガランタミン、リバスチグミン)、NMDA受容体拮抗薬(メマンチン)など、症状の進行抑制作用がある薬剤が用いられていました。
しかし、これらの薬剤は、もととなるアミロイドベータの沈着を抑える効果はなく、あくまで対症療法と考えられます。
このように認知症を発症してしまう20年上より前から、脳の中にアミロイドベータの沈着が始まっているといわれており、認知症を発症する以前の早期診断および治療が必要と考えられています。
そして、今回登場したレカネマブは、アミロイドベータに結合して脳の中からこれを除去し、アルツハイマー病の進行を抑制する効果があります。
このような薬剤は以前から開発が試みられていたものの、なかなかよい結果が得られないでいたのですが、このお薬は、治験にて18か月投与したところ、認知症の症状進行を27%抑制し、有効性が認められたものなのです。
このようなお薬が日本で承認されるのは、これが初めてです。
ブラボー!といいたいところですよね。
ただ、まだまだ課題があります。
このお薬を使うのは、またアルツハイマー病が強く進行していない状態でないと、あまり有効ではないようなのです。認知機能低下があるものの生活に支障がない軽度認知障害、ないしは早期アルツハイマー型認知症のうちに投与することが望ましい、と考えられます。
また、脳の中にアミロイドベータが異常に集積していることを確かめるため
アミロイドPETや髄液内のアミロイドベータ測定など
脳内のアミロイドベータを検出する検査が必要となります。
これは脳のアミロイドPETです。Aは正常な方。Bでは画像の赤い部分が増しています。これはあアミロイドベータが沈着している部分です。
日本医科大学 検診医療センターより引用しています。
この検査は、残念ながら日本では保険適応ではなく、非常に高額な費用が掛かる検査となります。当クリニックでも、これは施行できません。
そして、レカネマブを投与し始めたのちも、Infusion reactionとよばれる点滴への過剰反応、またARIA(アミロイド関連画像異常)とよばれる脳の浮腫や出血などの合併症を呈することがあるため、頻回に頭部MRIを行い合併症の有無を確認することが必要となります。
また、先行して承認された米国では標準的な価格が年間2万5千ドル(約380万円)と設定されており、おそらく日本でも非常に高額な薬剤となると思います。これを日本でアルツハイマー型認知症の患者さん全員に投与したら、おそらく日本経済は吹っ飛ぶと思います。どのように用いていくのが良いか、考えていかなければなりません。
ここまでのまとめ。
・アルツハイマー病は、脳の中に異常にアミロイドベータが沈着することに始まって様々な障害を呈し、その結果として認知症を生じる病気と考えられています。
・このアミロイドベータの沈着を抑えることで、アルツハイマー病/アルツハイマー型認知症の進行を抑制する新薬が、今後日本でも使えるようになります。
・しかし、認知症が進行する前に投与することが大切で、投与にはアミロイドPETなどの検査が必要なこと、投与中に脳異常を生じてしまうことがあるため、頻回にMRI検査を受けるなどの副作用対策が必要なこと
・なにより、大変高額な薬剤であり、今後どのように用いていくか、検討していかなければならないこと
院長としては、アルツハイマー型認知症の患者様にとって、今まではでてきている認知機能低下の症状や、感情が不安定になる、不眠になるなどの周辺症状に対して対処療法しかできなかったのが、もとになる病態にアプローチすることが可能になったことは喜ばしいことと思っています。
まずはこのお薬がパイオニアとして使われ、そして改良を重ね、一般的な市井の医師でも使いやすい、より多くの人に福音をもたらす治療法へとつながっていくことが望ましいのではないでしょうか。
さらには、認知症においてはアミロイドベータがすべてではないようです。
「中には老人斑や神経原線維変化がたくさんあっても、症状が出ない人もいます。
例えば、アメリカの修道女シスター・メアリーの話が有名です。
死後、脳の病理解剖によってたくさんの老人斑や神経原線維変化が見つかりましたが、101歳で亡くなるまで認知症の症状は一切出ていませんでした。他にも研究に協力した多くの修道女で同様のケースが確認されています。
これらのことから、生き方、脳の使い方に認知症予防の鍵があるのではないかと、現在更なる研究も進められています。」
認知症ネットより。
このように、アルツハイマー病の脳変化を呈していても認知症を発症しない方もいるのです。
これは、以前ブログに上げました「難聴は認知症の始まりかも」でも引用しました
ランセットの「Dementia prevention, intervention, and care: 2020 report of the Lancet Commission」
の内容ですが、
予防可能な認知症の関連因子として
幼少期の教育、中年期の聴覚障害、外傷性脳損傷、高血圧、過度のアルコール消費、肥満、老年期の喫煙、うつ病、社会的孤立、大気汚染、運動不足、糖尿病
があげられています。
これらに介入することで、認知症を40%ほど予防する効果があるとされています。
予防できることは予防して、
元気に過ごしていくのが、個人的には一番いい気がしますね。
ぜひ、皆様、認知症にならないように、生活習慣を整えてみてください。
ただ、なってしまっても、今後医学の研究で、より良い治療がうまれてくるかもしれません。
今回のレカネマブは、その一つと思います。
ここまで読んでいただいた皆様、ありがとうございました。
もし、ご自身の脳のことが心配でしたら
当院にお問い合わせくださいね。
アミロイドPETは、ちょっとできませんが
MRI、CTや各種診察はできますので、
脳に関するお悩み事がありましたら、
それを解決するお力になれれば幸いです。
ではではまた。